一点の光も無い空間に、マリオは目覚めた。
首に違和感を感じる。何か首輪がついている様だ。
人の気配はする。それも大勢の。マリオは戸惑いながら、辺りを調べようとした。
そもそも、彼は自分の家で寝ていた筈だった。安息の時間から、不安に落とされたマリオは、だんだん恐怖を感じ始めた。
いや、感じない方がおかしかった。自分の分からない世界に突然、居るという事は。

光が射す。無機質な蛍光灯の光は辺りを朧げに照らす。
そこは学校の広めの教室だった。辺りには机と椅子が散乱している。それ以外は何ら普通の光景…でもなかった。
マリオの周りには50人近い様々な者が居た。
天使の様な格好をした者、丸いピンクの生き物、獣面の者。
そんな者達が揃っていたが、明らかにマリオと同じ様に首輪がついていたり、戸惑っている事は解る。

「兄さん!」
この声はマリオの弟のルイージのものだ。ルイージもこの理解できない状況下に於かれていたらしい。
「ピーチ姫とヨッシーも居たんだ。ピーチ姫はまだ気を失っていて、ヨッシーが看病していたけどさ。この教室とか、首輪とか、何かがおかしいよ!」
マリオは既にこの理解し難い、奇天烈な状況と言う事だけは分かっている。本当に何が起きたのか。
だが、この後突き付けられる現実がマリオ達にとって理解しがたいものだとは、まだ彼らは知らない。

「ほら!お前達、みんな静かにしな!」
教卓に突如、UFOの様なものに乗ったスーツ姿の少年が現れた。
ますます状況は混乱していく。少年は、殆ど静かになった辺りに、信じられない言葉を吐いた。
「俺はポーキー!これからお前らに殺し合いゲームをしてもらうよ!」
まるで子供が友達に言うような口調で、ポーキーと名乗った少年は平然と言った。
当然、状況も相俟って周りの少年への反発は激しかった。だが少年は表情も変えること無く、UFOの中にある、何かを操作し始めた。
ポーキーの目の前に光が現れ、徐々に大きくなっていく。
まだ反発していた一部も静まり、全員の視線は光に向けられる。その冷たい光は人が入る程に大きくなっていく。
そして、現れたのは赤黒く染まった何かだった。それは気品はあるが、ボロボロになったオレンジのドレスを着込んだマネキンの様な形をした何か。
少年はふざけている。自分達を驚かして、その顔や反応を見て、笑っているただのドッキリだ。隠しカメラも配置されているに違いない。
それか人によってはマジックショーとも思っただろう。 今にマネキンが動き出すと。
誰もがそう思った筈だ。そう思いたかった。
そんな考えを打ち消すように、辺りには異常な臭気が漂う。
その、胴体が何かで蜂の巣の様になったマネキンの頭から、王冠が転がる。
オレンジの小柄な、花の様に宝石が配置された―

「デイジー姫!?」
ルイージがそのマネキンに近寄る。よく見ると、ブロンドの髪に日焼けした肌。
紛れも無くマネキンはデイジー姫だった。その惨状は知っている者にも、本人かどうか疑わせる程だった。
何故、何故彼女が。
ルイージは黙ってデイジー姫の亡骸を抱き寄せる。
「そんな…何の冗談ですか、デイジー姫!」

ドッキリ企画でも、マジックショーでも無い、現実。
悲痛なルイージの声がこだまする。
その凄絶な光景を見た、大きいリボンをした少女はこの臭気にも耐えられず、嘔吐していた。
その隣にいた赤い帽子をした少年は少女を心配しながら、ポーキーを睨みつけた。

マリオも我慢できない、ポーキーへの怒り。デイジー姫はただ自分達の状況を分からせる為だけに殺されたと言うのか。
そして、その現実はポーキーが本気だと言う事も意味していた。
「お前達もこうなりたくないだろ?じゃあ俺に従いなよ!」
ポーキーの行動には、残虐性が否めない。そもそも何が目的なのか?
やっとマリオは理解した。先程、殺し合いをすると言った。自分達を楽しませるのではない。…ポーキーが楽しむのだ。
ただそれだけの為にデイジー姫は…
「ああ!もし俺に逆らおうとしたり、その首輪を外そうとしたら、こうなるからね!」
ピ。
デイジーの首にも首輪がついていた。その首輪からは、あまりにも残酷なカウントが行われる。

ルイージはデイジーを抱きしめたままだったが、他の人々は何が起こるか、直感的に分かった。
カウントは理不尽にも速くなっていく。マリオはルイージからデイジー姫を離そうとするが、ルイージはデイジー姫を放さまいと強く抱きしめた。
その瞬間、ルイージの顔に紅い噴出がかかった。
デイジー姫の首は肉片に変わり、頭と体を繋ぐものは無くなっていた。その頭はポトリと落ちると、開いた瞳孔でルイージを見る。
「うわああああああぁ!!」
ルイージの無情な叫びが響く。デイジー姫は死してなおポーキーに玩ばれている。
哀れなデイジー姫を尻目に、人々はデイジー姫からも、ルイージにも近寄ろうとしない。

完全にポーキーには逆らえない。それはもはや、どんな者だろうと全員が理解できた。
「ルールは簡単だよ!これからお前達64人はこの島で1人になるまで殺し合ってもらうんだ。
タイムリミットは3日間! その首輪は3日間を過ぎたり、決められた禁止されたエリアに入ったり、無理矢理外そうとしたり、
島から出ようとしたり、最後に死んだ奴が死んでから24時間以内に死者がでないと爆発するから注意しろよ!
優勝すれば、無事に元の世界に帰して、一つだけどんな願いでも叶えるぜ!」
ルールを説明するポーキーの顔には狂気じみたものさえある。
「まずは道具や武器が入ったザックを渡すからな。でも武器はランダムで、ハズレもあるが、その時は諦めろよ。
貰った奴から教室を出て行けよ!」

「じゃあ名前を呼ばれた奴から来いよ。アドレーヌ!」
ポーキーは名前を読み上げると、ベレー帽を被った少女がポーキーの元へ素直に歩き出す。
もうポーキーには逆らえない…一部はそうでなかったかもしれない。ポーキーを欺く為にこのゲームに乗った振りをしたり、本気でゲームに乗ったかも知れない。
様々な思惑を抱きつつ、人々が素直にザックを貰って教室を出ていく間に、マリオをルイージを慰めた。


「…ルイージ」
「畜生…」
ルイージはデイジー姫を守れなかった事に、マリオ以上にショックを受けていただろう。
友人が殺され、更に人々の目の前で見せしめに首を飛ばされたマリオも怒りを隠しきれない。
「姫…」
これが夢だったらどれだけ良かったのか。そして今、ドアから元気なデイジー姫が出て来て、マリオやルイージ達をからかった事を謝りに来たらどれだけ喜べたのだろう。
もう、デイジー姫の笑顔を見る事は出来ない。
ルイージはもう何も考えられない、放心状態だった。
…否、ルイージはまだポーキーの言葉を頭の中で復唱していた。

”優勝すれば一つだけどんな願いでも叶える”と。

悪夢は、まだ序章に過ぎない。



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