まだ空は青一色に写り、辺りは薄暗い。その僅かな光が、その島を覆っていた。
更に木々が多い事も相俟ってか、森の木々の下はまだ異様に暗い。
その木陰に、シルクハットとマント、大きい耳の鼠の影―ドロッチェが現れた。
ドロッチェの周りは、まだ、ただ木のざわめきが呻くだけだ。
周りをよく確認すると、ドロッチェは慎重に身を隠す。支給品のランタンは点けていない。
うかつに持ち物を確認しようものなら、物音と確認するための明かりでゲームに乗った奴が近づくかもしれない。それは致命的だ。
持ち物や、地図を確認するなら明るくなって来た時の方が目立たないだろう。
ドロッチェが空を見上げるとまだ空は暗く、茂みの間から山の様な影が見えた。それはドロッチェにとって大きな壁にさえ見えた。
ドロッチェは最初はゲームに乗るつもりだった。願いが叶うなら。財宝が手に入るなら。例え、あの緑帽子の男の様に叫ぶ者が増えようとも。
彼は、仲間さえ居なければ自ら血の宴に身を投じていた筈だった。
だが、あの主催者が仲間の名前を呼んだ時、彼の思考は即座に切り替わった。
スピン。
彼の大切な仲間だ。自分を信頼して、慕ってくれる、仲間の一人。
自分は、スピンを殺せるのだろうか。…いや、出来まい。仲間のスピンの血を被った瞬間、自分を見失うだろう。
ドロッチェはそう考えると、頭を横に振った。
ドロッチェはただ、この様な極限状態に於いては我を失わない事と仲間を失わない事が大事だとは常に分かっている。
以前プププランドに来て、ダークゼロに取り憑かれた時も、あの時は宝に目が眩んだ、自分の判断が招いた結果。
その時はカービィによって、ドロッチェはダークゼロより救われた。
それ以来から彼の慎重さは増している。
…が、そのカービィもこのゲームに参加させられていたのだ。まさかカービィがゲームに乗るとは思えないが…
ドロッチェはため息をつく。ある意味で最悪の状況だ。
スピンと早く合流しなければならない。だが、今の彼にはかつて持っていた武器は無い。今持っている武器は確認していないだけだが、使える物とは限らない。
だが確認出来る状況ではないし、よって武器はまだ使う事が出来ない。明るい場所まで行こうとも、うかつに動けないのだ。
しかも万が一、今の状況でゲームに乗った奴に見つかり、武器がハズレだったらどうなるか?間違いなくドロッチェは破滅だろう。
ましてやそのゲームに乗った奴がカービィだったら…
早く武器は確認すべきなのだが、敵に見つかる事は許されない。
だが、いい加減空は明けてきたのだ。十分この僅かな明かりでも感覚で持ち物を確認する事だって…
ドロッチェは考えを変えて、慎重に背負っていたザックを降ろし、音を起てぬ様に口を開けた。
今後の行動を左右するものだから、いくら冷静なドロッチェとは言え、鼓動が高まっていくのが分かる。
焦りは否めなかった。
ザックに手を突っ込み、武器らしき物を取り出すとドロッチェの目の前にはドロッチェより少し大きい剣が現れた。
剣は無意味に刀身から目も眩まない程度、だがハッキリした光を放っていた。明らかに周りに目立ちすぎている。
暗い内にこんな目立つ剣を屋外で使うのは自殺行為だ。
ドロッチェは剣をザックに戻すと、周りを見渡す。影も見えず、別に物音はしなかった為、近くに生き物が居ないと判断した。
この光では目を眩ませる事にも、明かりにすら使えない。かなり使い所が難しい剣だ。だが、剣ならまだ当たりの部類に入るだろう。
剣は使い慣れていないが、戦うには十分だった。
ドロッチェは完全に夜が明けるまで待つ事にした。まだ夜明けの内にこの剣を使っても自分の場所を知らせるだけ。
だが日が射せばそれ程目立たなくなるだろう。
「フン…上等じゃないか」
ドロッチェはザックを背負い直すと、また息を潜める事にした。
彼の行動方針は二つある。
スピンと合流し、二人で生き延びるのか、スピンが死ぬ事を前提で、ゲームに乗るのか。
後者の方がゲームのルールにも則って優勝し、スピンを生き返らせる事も出来る。だが、わざわざ自分から危険に入る事になるし、スピンは一度死の恐怖を経験するだろう。
ドロッチェは…迷わず前者を選んだ。スピンはそんなに直ぐ倒される程弱くないし、スピンを苦しめないでこのゲームから脱出する事だってドロッチェの力なら不可能ではない筈だ。
問題はこの首輪なのだが…
先ずはスピンを捜す。ドロッチェはそう決めた。
その頃、ドロッチェの場所から近い場所で、赤髪の少年、ロイがザックから何かを取り出していた。素直にランタンを点けて。
「これは食料…」
ロイは律儀にザックの中身を確認する。
「これが、武器…」
ロイはザックから武器の様な物を取り出しながら言う。その武器は、調理用家具、フライパンだった。
「…」
その黒光りする金属の塊に、ロイは絶句する。
硬い割には重さは無かったし、扱いやすそうだが人を殺めるべき道具ではない。
だが、上手く扱えば敵の攻撃を受け流す事も出来るだろう。
「…こういう時こそ慌てない方がいいんだ。」
ロイは手に持つと、一振りした。
ロイは主催者に対して憤りを感じていた。人の命を何だと思っているのか。
この首輪さえ無ければ、あの主催者を止めていたのに。
今もあの緑帽の人の声が耳にこびりついている。
何よりロイは、幼馴染みのリリーナまでこんな殺し合いに参加させられていた事に耐えられなかった。
あのリリーナがこんな状況に耐えられるのだろうか。
「僕が…早くリリーナを護らないと」
ロイは立ち上がると、歩き始めた。
「街に行った方が良いかな。」
ロイは地図を左手に、フライパンを右手に持ちながら、ここから北西の街へ向かう事にした。
リリーナは何処にいるのか分からないが、街なら隠れる場所もそれなりにあるし、先ず拠点となる場所を捜す事も必要。
いずれにしろ、動く事が大切だ。
「リリーナ、どうか無事で!」
幸い、ロイはドロッチェとは死角になる様な場所に居た。
(…!)
だが…その頃、ドロッチェは何者かの気配を感じた。
【名前:ドロッチェ@星のカービィ
健康状態:良好
武装:無し
所持品:支給品 光の剣(FE封印ver.)/新品・残り25発
現在位置:F−8 エリア8
第一行動方針:気配の元を確かめる
第二行動方針:完全に夜が明けるのを待つ
第三行動方針:スピンと合流
最終行動方針:スピンとゲームへの脱出
備考:ドロッチェは一人称「俺」で。人を騙す為に口調や一人称を変えるかもしれません。
光の剣からは光が漏れてます。間接攻撃が出来るので夜戦時のハンデで。
】
【名前:ロイ@FE封印
健康状態:良好
武装:無し
所持品:支給品 フライパン@マリオRPG/新品
現在位置:H−8 エリア8
第一行動方針:北西の街へ移動
第二行動方針:リリーナを捜す
最終行動方針:リリーナを護る(後の事は考えていない)
備考:現在F−8に向かって移動中。ドロッチェに気付いていません。
】
現在時刻:午前6時15分